子どもの近視進行抑制

近年のパソコンやスマートフォン、タブレットの普及に伴い、子どもの生活上でも近くを見続ける時間が増え、子どもの近視が増加しています。小学生の約4割、中学生の約6割、高校生の約7割が裸眼視力1.0未満と報告されています。近視は、学校での勉強やスポーツなどに不便が出るだけではなく、将来の目の健康に影響を及ぼす可能性もあります。
近視の進行は、おもに6歳〜12歳ごろから始まります。進行すると、目が前後に長くなり眼球の長さ(眼軸)が増します。一度長くなると、もとに戻すことはできず、一部は病的に進行することもあるため、早めの対策が重要です。
そのため、点眼薬やコンタクトレンズを使用し、眼軸の伸展を遅らせ、近視進行を抑制する研究が行われています。

要因

近視の発症には、「遺伝的要因」と「環境的要因」の2つが関与すると考えられています。

遺伝的要因

片親が近視の場合は2倍、両親が近視の場合5倍の確率で近視になるリスクが高くなると言われています。

環境的要因

パソコンやスマートフォン、タブレットなどの近業作業の増加 、屋外活動の減少などが考えられています。
近い距離に焦点を合わせる機会や時間が長くなると、眼軸が伸び、近視を発症、進行しやすくなると言われています。
また、世界共通で認識されている近視の要因として「外遊び」の減少があります。日光に当たる外遊びが少ない子どもは近視になりやすいと言われているため、予防には日光にあたり、外で遊ばせることが勧められています。

種類

軸性近視

角膜から網膜までの距離(眼軸)が長いことに起因するものです。眼軸が伸びて長くなることで、目から入った光が網膜まで届かずに手前で焦点が合ってしまい、ピントが合わなくなります。
近視進行抑制の効果があると言われる治療法は、この眼軸の伸長を抑えることを目的としています。

屈折性近視

角膜や水晶体の屈折力が強すぎることに起因するものです。近くのものを見るとき、通常は水晶体が厚くなることでピントを合わせますが、
厚く膨らんだままの緊張状態が続くと遠くのものが見えにくくなり、近視になります。

なぜ眼軸が伸びる?

目はふだん、レンズの働きをする水晶体が厚くなったり薄くなったりすることで、網膜の上で焦点が合うように調節しています。 しかし、近い距離を見ると、焦点が奥に行きすぎて水晶体が調節してもぴったりと合わなくなってしまいます。
この状態が長く続くと、目の形を変えて奥に行ってしまった焦点を網膜上に合わせようとして、眼球の長さ「眼軸」が伸びてしまうのです。
眼軸が伸びると、眼球はラグビーボールのような形になり、遠くのものを見ると、焦点は網膜の手前にきてぼやけてしまいます。

近視抑制のためにできること

近視抑制のためには、近くを見続けないようにすることや、適度に目を休ませること、1日2時間ほど日光を浴びることが有効だと報告されています。
また、低濃度アトロピン点眼薬による点眼治療やオルソケラトロジーも近視抑制効果が期待できます。

正しい姿勢で座り、30cm以上の距離をあけて見るようにする

寝転んで読書をしたり、崩れた姿勢で作業したりすると、見る距離が近くなり、近視が進行しやすくなる可能性があります。
正しい姿勢で座り、画面や本から30cm以上目線を離すように心がけましょう。

適度に目を休ませる

「20分-20秒-20フィート」ルールを意識する。
20分近業作業をしたら、20秒間、20フィート(6m)先を見ると、近視の進行を抑制し、眼精疲労にも効果があります。
この際、ぼんやりと風景を見るより、時計などの指標をじっと見るとより効果が得られます。からだと同様、目も休憩をさせることが大切です。連続して同じ距離ばかりを見続けないようにしましょう。

外遊びの時間を作る

1日2時間以上1,000ルクス以上の光に当たることで、近視進行を抑制するとされています。
すでに台湾では国策として取り組まれており、近視の有病率が下がった実績があります。なお、1,000ルクスという明るさは、屋外なら木陰でも確保できますが、室内での確保は難しいため、2時間程度の外遊びを心がけるといいでしょう。

オルソケラトロジー

オルソケラトロジーは、夜間睡眠中に特殊なハードコンタクトレンズを装着し、角膜の形を平坦化して近視や乱視を矯正する方法です。
朝起きてレンズを外した後も一定時間角膜の形が保持され、日中はコンタクトレンズやメガネを装着せずに裸眼で生活することが可能です。普通のコンタクトレンズやメガネで近視を矯正した場合、網膜の中心にはピントが合っていても、周辺の網膜像は遠視気味にピントがずれており、この周辺のピントのずれが眼軸を伸ばす原因になると言われています。眼軸が伸びるとその分近視が進むので、近視の進行につながると言われています。
オルソケラトロジーで矯正した場合は、この周辺の網膜のピントのずれが起こりにくいため、近視の進行を抑制すると考えられています。親が付け外しすることで小学校低学年からの治療も可能です。軽度~中等度までの近視の方に適した治療方法です。

点眼薬での近視抑制治療

低濃度アトロピン点眼治療

世界的に最も広く行われている治療です。もともと、1%のアトロピン点眼(通常の濃度)は、小児の斜視や弱視の診断や治療に長く使われてきました。
この点眼を20倍~100倍に濃度を希釈した0.01%~0.05%アトロピン点眼には、点眼を行わない場合と比べて、点眼を開始した初年度に、近視進行をおおよそ30~70%抑制する効果があることがわかりました。低濃度アトロピン点眼は濃度が低いため、瞳が広がる作用で生じる、眩しさや手元の見えにくさ、といった副作用がほとんどありません。 1日1回夜寝る前に点眼するだけでよく、手間もそれほどかかりません。
日本では2024年12月末に国内で初めて近視進行抑制治療として厚生労働省が承認した参天製薬の点眼剤リジュセア®ミニ点眼液 0.025%が、2025年春から販売されています。

リジュセア®ミニ点眼液0.025%(一般名:アトロピン硫酸塩水和物点眼液)

日本で初めて製造販売承認を取得した近視進行抑制点眼剤です。
この薬は1回1滴、1日1回就寝前に点眼することで、眼球の前後の長さが伸びるのを抑え、近視の進行を抑制することが期待できます。

このような方におすすめです

  • 軽度または中等度の近視の方
  • 5歳から15歳のお子様

治療費用

保険適用外のため自費診療となります。

  • 診療・検査費用:2,500円(税込)
  • 薬剤代:1箱(30本入)4,300円(税込)

治療の流れ

最初にお子様の目の状態や視力を検査し、診察を行なったあとに処方となります。
まずは1箱処方し、副作用などの確認のため1カ月後に受診していただきます。
その後は3カ月毎の定期受診をしていただきます。

当クリニックでは子どもの近視抑制治療を行なっています。

近視は子どものときほど速く進む可能性があります。早い段階からできるだけ、近視が強くなるのを避けることで、将来の見え方を守り、目の病気になる可能性を低下させることが大切です。
お気軽にご相談ください。